目次
①
入学を検討されている方、学生の方へ
訪問鍼灸・マッサージを行うために
私たちの業界では、「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」といった国家資格が必須です。これがないと、そもそも保険施術が不可能です。
上記の国家資格は、国家試験に合格することで得られます。国家試験は毎年2月の下旬に行われます。受験資格は厚生労働省や文部科学省が認可した専門学校や大学を卒業することで、卒業までには最低3年間必要です。
人の身体に触れる仕事ですから、3年かけてしっかり勉強し、効果的かつ安全な施術ができるよう、相応の時間をかける必要があるということですね。
国家試験
国家試験は、2日間かけて行われ、1日目はあん摩マッサージ指圧師、2日目ははり師・きゅう師の試験となります。国家試験は絶対評価であり、合格者の上限は決まっていませんので、基準さえ満たせば合格となります。
ボーダーは、満点の6割です。
・あん摩マッサージ指圧師: ➡ 96点がボーダー
160点満点・はり師、きゅう師: ➡ 102点がボーダー
それぞれ170点満点 難易度は高すぎず低すぎずというところですが、真面目に3年間勉強していれば、無理なく合格できる水準に設定されていると思われます。あん摩マッサージ指圧師の合格率は80%~85%、はり・きゅう師の合格率は75%くらいです。
試験科目につきましては、
西 洋 項 目:
解剖学、解剖生理学、病理学、臨床各論、臨床総論、リハビリテーション東 洋 項 目:
東洋概論、経絡経穴、東洋臨床専 門 項 目:
あん摩理論、はり理論、きゅう理論その他項目:
医療概論、衛生学、関係法規と多岐に渡ります。ここ最近の傾向としては、東洋系の問が充実している印象であり、はり師・きゅう師はより顕著です。
勉強時の考え方
国家試験は、6割を超えれば合格なので、満点を目指す必要はありません。ただし、6割を目指す勉強をしていても、6割を超すことは難しいでしょう。ひとつの目標として、確実に8割を超えられる水準の学力をつけると、かなり自信が持てるようになると思います。
西洋項目
解剖学は基本的に暗記科目ですので、記憶を定着させるために繰り返しましょう。はり・きゅうでは、血管や神経の問題があん摩と比べ比較的多く、やや難易度が高い傾向にある印象です。
解剖生理学も暗記の要素はありますが、こちらはメカニズムというか、「Aが起こったからBが起こる」「Cという目的のためDが起こる」というようなストーリーが必ずあります。どのようにしてホメオスタシスが維持されているか、ということですね。このストーリーを理解することが、苦手な人は克服するコツのひとつではないかと思います。
病理学は、生理学を理解していると、かなりスムーズです。生理学では「正常な身体の反応(=ホメオスタシス)」を学ぶのに対し、病理学は「病的な身体の反応」のメカニズムの学習となります。生理学も同じですが「どうして(どういう作用機序で)そうなるのか?」を理解することが、記憶を定着させる近道です。
臨床各論、臨床総論も暗記の傾向は強いですが、やはり解剖学、生理学のロジックが入っていれば、丸暗記よりも遥かに定着しやすくなります。他も同様ですが「何がどのようにしてそうなるのか?」を深めていきましょう。
リハビリテーションは、他の科目との繋がりが薄く見えるため、学生の頃は私も取り掛かりにくかった印象があります。ただ、訪問鍼灸・マッサージに携わる上で、これほど実践的で勉強になる科目はありません。介護とも関わる項目も多く、意欲を以て学習されると、試験対策のみならず、就職後も大変楽になると思います。MMT、ヤール分類、長谷川式、などという言葉は、現場でも頻繁に耳にします。実践に直結している、貴重な科目ですね。
東洋項目
東洋概論は、暗記が主になります。現代科学のロジックとは大幅に異なるため、苦手意識を持つ方も多いようですが、逆に好きな方には魅力的な科目になりますね。特に、五行色体表は覚えていないと、他の東洋科目も含め全く戦えないので、ここは確実に抑えておく必要があります。臓腑が指し示すメタファーも、確実に覚えておきましょう。
経絡経穴も、取っつきにくいかもしれませんが、暗記が主となります。経絡は、上肢や下肢の場合、神経と走行と重ねて覚えると、かなり理解しやすくなります。心包経と正中神経、大腸経や三焦経と橈骨神経、といった要領ですね。経穴は、最低でも原・郄・絡・募・背部兪穴は必須であり、はり・きゅうでは井・縈・兪・経・合も必須です。もちろん、可能な限り多く覚えるのに越したことはありません。流中と合わせ、経絡ベースで覚えると良いでしょう。
東洋臨床は、これまで培った知識の実践的な応用が問われます。臨床論の知識、経絡経穴、神経の走行、色体表、臓腑のメタファー、全ての知識を活用して、問題文に当てはめていきます。文章にするととても大変そうな科目ですが、出題傾向にある程度のパターンがありますので、過去問を繰り返せば、見えてくるものがあると思います。また、テスト法は確実にしておきましょう。
専門項目
ここは、特別に難しいことはありません。教科書を一通り履修すれば大丈夫でしょう。
その他項目
医療概論や公衆衛生は、内容は常識的なものも多く、一般的にもかなり勉強になる科目です。ただ、中には条約の年号だとか、水道水の基準だとか、細かい項目もあり、全てを網羅しようとすると大変だと思います。網羅できるのが望ましいですが、自分の現状のレベルと残された時間を鑑みて、他との兼ね合いで項目の優先順位を考えることも大切です。
関係法規は、いずれ独立を志すのであれば、より重要度が高くなるでしょう。特に、免許の取扱い、施術所開業の要件、広告制限などについては試験で取り上げられることも多く、開業時も知識として必須になりますので、重要ポイントです。
就活
就活を始めるタイミングですが、基本的には国家試験を優先させたいため、よほど試験に自信がある場合でなければ、試験後から本格的に動けば良いと思います。もちろん、それまでに説明会等があれば、参加すると良いでしょう。
国家試験の合否発表はひと月ほどかかりますが、大半の方は自己採点を済ませ、概ね大勢は判明しているでしょうから、このひと月の間は積極的に動いてきましょう。
私たち、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が活躍できるフィールドは数多くあります。
・店舗型治療院、整骨院
・訪問治療院
・介護系事業所(機能訓練指導員など)
・病院
主たるものはこういったところでしょうか。私たちは、訪問鍼灸マッサージの団体ですので、訪問の業界が活気づくのは大変嬉しく思います。ですので、ぜひぜひ、興味を持っていただければ嬉しく思います!
ちなみに、現状としてははり・きゅう師の方が学校数や人数が多くなっているため、相対的にあん摩マッサージ指圧師の需要が高まっているそうです!
以降は、訪問鍼灸マッサージ業界に就職した場合に、どのようなことを考えれば良いかについて、考えていきます。
②
勤務あはき師の方へ
訪問施術の実践
さて、就職が決まり、いよいよ施術家としてデビューです。やる気に満ち溢れるタイミングではないでしょうか。
施術の実践において念頭に置くべきことがあります。それは、訪問では施術難度は総じて高めである、ということです。なぜ高めなのか、その理由は以下になります。
・患者様は大半が後期高齢者であり、ちょっとした力加減の誤りで、揉み返しや事故が起こり得る
・家庭環境が各々異なるため、施術空間が安定しない。介護ベッド、布団、ソファーやチェアで行う場合などがあり、これら全てに対応する必要がある
・ほとんどの人は伏臥位になれず、相対的に側臥位の頻度が高くなる
ちょっと怖いことも書きましたが、気後れする必要はなく、むしろ早い段階で技術のレベルアップが図れますので、「むしろ得である」と考えて良いのではないでしょうか。
訪問では、スペースが狭かったり、側臥位が多くなったりするので、施術者も体幹バランスが必要です。これは下半身を鍛えることで身に付けられます。自転車移動であれば、足腰と体幹バランスがオンタイムで鍛えられますので、最初の内は選択肢として有力かもしれません。
施術に関しましては、衝圧法、矯正など、刺激が強いものは基本的にNGです。関節拘縮が伴う方が多いので、他動運動を主とした運動法は多用することになると思います。これは、変形徒手矯正術の範疇になるでしょう。
事務作業
会社の方針によって、施術者は施術のみの業務の場合もあれば、事務仕事を担当する場合もあるでしょう。或いは、所長など役職がつくと、事務仕事を一手に引き受ける場合もあるかもしれません。
これは、どちらが得か単純に比較はできず、今後の自分のビジョンによって分かれます。数多く施術を行いたい、歩合でしっかり稼ぎたい場合は施術のみで多く依頼を受けるのが良いでしょうし、いずれ独立を志すのであれば、それらを勉強できる治療院に努めるのが良いですね。雇用されている場合のこの点は本当に恵まれていると思います。
訪問鍼灸・マッサージ業の事務仕事には、以下のものが挙げられます。
・レセプト業務
・同意書、再同意の作成
・施術報告書の作成
・営業、集客
これらを、一から自力でノウハウを身に着けようと思うと中々大変ですが、上司や先輩など詳しい人から教えてもらい、学びを深められるのは、大変良いポジションだと思います。
インプットとアウトプット
雇用されている時は、上記項目など、身になることをひたすらインプットするのがお勧めです。何よりお得な点は、これらを無料で、むしろ給料を貰いながら教えてもらえるという点です。これ、実は考えられないほど恵まれているポジションです!これを利用しない手はありませんので、技術やノウハウを、積極的にインプットしましょう。
インプットの最終形態は、アウトプットすることです。これは、後輩や部下ができたら自然とすることになるでしょう。このアウトプットが自然にできることにより、自身のインプットが完成されると言っても過言ではありません。
そして、この段階にくれば、独立、開業も現実味を帯びてくるのではないかと思います。
③
独立・開業を志す方へ
キャリアは人それぞれ
このページでは独立・開業を最終項目にしていますが、もちろんこれが望ましい、と言うつもりは全くありません。企業の中でキャリアを積み、組織の一員として活躍の場を広げることも、大変素晴らしいことだと思います。この辺りは個々人の性格や気風が出るところですね。
ただやはり、一国一城の主、という表現が適切かはわかりませんが、独立し、自分の店を持つことを夢にする方は、多くいらっしゃると思います。ここでは、独立開業する時に、どういったことを考えれば良いのか、見ていきましょう。
独立に必要な要件
訪問鍼灸・マッサージで独立をするためには、「施術管理者」の要件を満たす必要があります。これには、条件が二つあり
1)1年以上の実務経験を有すること
2)施術管理者講習を受講すること
です。これらは二つとも、証明書を地方厚生局に提出する必要があります。ただ、一部特例がありますので、詳細は地方厚生局のHPや、当サイトのブログでご確認いただければと思います。
手順としては、保健所に開業届を出した後、上記1)と2)を満たした状態で、地方厚生局に受領委任取扱いの届け出を提出する、という流れになります。
事業計画
独立を志す際は、事業計画を立てておくと良いでしょう。もし、銀行から融資を受ける際は必須となりますし、仮に自己資本だけで賄うとしても、行き当たりばったりではなく、中長期的な収支などの想定をしておく必要があります。
訪問鍼灸・マッサージは、他業種と比べ、固定費のランニングコストは比較的抑えることができます。ただ、Webにしろ紙面にしろ、広告を積極的に打ち出すなら、やはり相当額が必要となるでしょう。
初期費用はある程度計算することができます。また、訪問鍼灸・マッサージは売上額が厚生労働省により定められていますので、収益に関しても想定したり、計画を立てたりすることは比較的難しくありません。当サイトにも、おすすめ情報やブログに詳細がありますので、併せてご覧ください。
営業
独立したての頃は当然ですが一人ですので、全ての業務を一人で行わなければいけません。レセプト業務や同意書業務などは、何回か経験して覚えてしまえばそれほど詰まることはなくなるでしょうが、営業は対人ですので、必ず上手く行く保証はありません。
ただ、もちろん手法によって、成功確率を大幅に上げることはできます。施術技術が集客に影響するのはもちろんですが、営業が上手く行かないと、そもそも技術を振るう機会がなくなりますので、ここは最重要のポイントになるでしょう。
営業がどうしても上手くいかない、苦手でできない、という場合は、業務委託やFC加入という選択肢もあります。ただ、その分ロイヤリティが発生しますので、どこに重きを置くかの判断が、重要になってくると思います。
雇用
一人治療院にするか、ゆくゆくは雇用するかも、考えどころです。仮に一人治療院で続けるのであれば、開業の際に出張専門で届出を出しておけば、審査も楽で、テナント料も発生しないのでお勧めです。ただ、出張専門の状態から人を雇おうとする場合は、一度出張専門の廃止届を出した後、再度施術所登録をする必要があり、空白期間が長くなるリスクが生じます。雇用に関しても、可能であれば初期の頃から想定しておきたいところです。
また、求人に関しては、どの治療院さんも悩みが尽きないようです。こればかりはご縁ということもあるので、必ず成功する打ち手はありませんが、思い通りには中々行かないこと、想定より時間がかかる可能性が高いことは、あらかじめ認識しておくと良いでしょう。